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日本から見たロシアや中東欧

🇬🇪ジョージア料理を食べながら映画『ダンサー そして私たちは踊った』を語る @スンガリー新宿三丁目店🍽

ジョージアの国立舞踊団を舞台にしたスウェーデン・ジョージア・フランス合作映画『ダンサー そして私たちは踊った』が2月21日に公開になりました。

ロシア料理店スンガリー新宿三丁目店にてジョージア料理をいただきながら、映画ライターの木野ゆかりさん、ジョージアンダンス倶楽部のSapphiraさん、ジョージア美食研究家の小手森亜紀さん、МФК PHOTOSの写真家YAJさんにお話を伺いました。


『ダンサー そして私たちは踊った』[原題:And Then We Danced]

STORY ジョージアの国立舞踊団で、幼少期からダンスパートナーのマリとトレーニングを積んできたメラブ。日中のハードな練習の後はレストランでのアルバイトで家計を一手に引き受け、気持ちの休まる暇もない。そんなある日、カリスマ的な魅力のある青年イラクリが入団し、同時にメイン団の欠員補充のためのオーディションの開催が知らされる。イラクリの持つダンスの才能に驚き芽生えたライバル心が、オーディションに向けての2人だけの特訓を経て、抗えない欲望へと変化していく・・。

映画『ダンサー そして私たちは踊った』公式サイトより

監 督:
レバン・アキン
出 演:
レバン・ゲルバヒアニ
バチ・バリシュビリ
アナ・ジャバヒシュビリ
製 作:
🇸🇪スウェーデン 🇬🇪ジョージア 🇫🇷フランス (2019)

※物語の結末に関する言及もございますのでご注意ください。
 

作品の背景(ジョージア映画について) ― 木野ゆかり

ー この映画は「禁じられた恋」を描いて物議を醸し、ジョージアではプレミア公開時にデモまで起きて一般公開されていないとのことですね。

それをジョージアの閉鎖性みたいに思われると、ソ連時代からのジョージア(グルジア)映画ファンとしては心外で、頼まれてもいないのに現地の肩を持っちゃいますけど(笑)そもそも監督がジョージア系なだけで、これってスウェーデン映画なので、なんかこう、人権先進国から途上国扱いされた、みたいな反発があったと思うんです。単純なゲイフォビアの上映反対運動とは違うんじゃないかな…。

『花咲くころ』(2013年 ジョージア独仏合作 ナナ・エクフティミシュビリ監督) という作品では、誘拐結婚の風習が残るジョージアの社会を批判していますが、こういう内側からの告発(ナナ・エクフティミシュビリはジョージア出身の女性監督)であれば、今回のような激烈な反発は招かなかったかも。

ー (厳密には本作は違うとはいえ)ジョージア映画というと日本では馴染みがありませんが、どのような作品、特徴がありますか?

ジョージア映画は食やワインと肩を並べるくらい古くて豊かです!(笑)。有名なのは『放浪の画家 ピロスマニ』(1969年 ソ連 ギオルギ・シェンゲラヤ監督) とか、『落葉』(1966年 ソ連 オタール・イオセリアーニ監督) とか。ソ連嫌いのイオセリアーニ監督はフランスに渡りましたが、ずっと祖国愛を映画でうたっています。

昨年日本でも公開された『ジョージア、ワインが生まれたところ』(2019年 米国 エミリー・レイルズバック監督) という素敵なドキュメンタリー映画がありましたが、あの中で古式ゆかしいクヴェヴリ製法のワイン醸造シーンとして引用されているモノクロフィルムは、イオセリアーニの『落葉』なんですよ。『落葉』はソ連式の合理化と大量生産でワインの質が落ちるのを嘆く物語なんですが、そういう意地と誇りと反骨精神で芸術性の高い映画を撮っていたというのがジョージア映画の一面です。

この作品の中でも、50年前なら主人公メラブのような繊細な踊りもあったけど…というセリフが出て来ました。さっき、ダンサーのSapphiraさんに、諸外国からの政治的圧力に対し強くあることが必要であった時代にダンスの表現も変わっていったというお話を伺って、大変興味深かったです。ソ連式の画一文化や生産方式を押し付けられた時代に、その反動として民族の伝統や結束を強調する必要があったという政治的な背景を知ることで、この作品への理解も深まると思います。

ジョージア映画

ジョージアンダンスについて ― Sapphira

Sapphira

ー まずはジョージアンダンスの特徴について教えてください。

映画の中にはジョージアンダンスのいろいろな演目が踊られていました。冒頭のアチャルリやホルミなどは、映画の中で「○○を踊れ」と出てくるので気が付くとは思いますが、白い衣装を着た男女のペアダンスのカルトゥリ、これはジョージアの新郎新婦が結婚式で踊る大切な踊りです。この踊りを踊るためにカップルは踊りのレッスンに通います。文化にジョージアンダンスが根付いているって素敵だなぁと思います。

また、足を大きく広げ口にコップを加えているシーンがありました。周りでダンサーたちがはやしていたので練習の合間にふざけているとしか見えないシーンですが、これもれっきとした演目の一つキンタウリです。ジョージアンダンスを知る人ならピンと来るはずです。

撮影に使われたのがジョージア国立民族合唱舞踊団ルスタビのスタジオ。ここで、日本人初!ジョージアンダンサーの野口雅史さんが学ばれています。私もここでレッスンを受けましたので懐かしい。ルスタビは過去2回日本で公演しています。

ルスタビの他に、エリシオニ、シュヒシビリがジョージアでトップ3のアンサンブル(合唱舞踊団)と言われています。

ー その舞踊団で踊るということはひとつのステータスですね。

葛藤の中にある主人公メラブが父親に会いに行くシーンがあるのですが、会話から父親もまた舞踊団のダンサーだったことがわかります。あの劇場、この劇場で踊った、ということを言っていたのでメラブがオーディションを受ける「メインのグループ」にいたのでしょう。それはメラブが目指しているポジションであり、身体を酷使しダンサー寿命の短いジョージアンダンスのトップを目指してもやはり自身の貧困からは脱せないという事実が浮き出てくる。

ー その父子の会話のシーンで父親が、ジョージアンダンスも変質していったというようなことを言っていました。木野さんもその点に触れていらっしゃいましたが。

私はもともとアラブの踊りを学んでいますので、エジプトの話になりますが、多民族が一つの国を作る場合一つの国としての同じアイデンティティーを持つのが難しい。飴と鞭ではないですが、楽しいエンターテイメントとして国内に存在する民族の踊りを国民に提供することで愛国心を育てる。エジプトの国立民族舞踊団にはこのような目的があったので、ジョージアの国立舞踊団も政治的背景があるかもしれないと仮説を持って歴史を見るようにしていました。

ー 劇中のダンスはいかがでしたか?

ダンスはジャンルが違うと身体の使い方が全く違うので、一朝一夕には踊れません。バレエダンサーやジャズダンサーがベリーダンスが踊れない、ヒップホップのダンサーがバレエを踊れないなんて話はざらにあります。そして本作の主人公、メラブ役のレヴァン・ゲルバヒアニ君はコンテンポラリーダンサーです。

今回ジョージアンダンスを踊るダンサーではなくコンテンポラリーダンサーを主役にしたのは、良い意味でメラブがダンサーとしてパッとしない役どころ感が出るのと、最後の自分の気持ちを開放する決意をジョージアンダンスとかけ離れたコンテンポラリーを踊ることで表現させた。ジャンルの違うダンスを上手に組み合わせています。監督が主役をコンテンポラリーダンサーのレヴァン・ゲルバヒアニ君にこだわった理由なのではと。
ジョージアンダンスとしての伝統、型に強くこだわる舞踊団の重鎮がメラブが踊り始めた途端怒って退席した意味はそこにあります。

― 本場のジョージアンダンスを観てみたいですね。

この映画がきっかけで、日本でもジョージアンダンスに興味を持つ人増えると嬉しいですね。
5月に野口雅史さんが一時帰国されるので 、ジョージアンダンスに興味を持った方はその時に気になるイベントへ参加してみて下さい。日本で現地の踊りに触れられるまたとない機会です。
 
 

ジョージア料理と暮し ― 小手森亜紀

ー 劇中では主人公のメラブがレストランで働いていてたくさんのヒンカリをサーブしていましたね。

本場のヒンカリの大きさ、オーダーのしかたがよく分かると思います。男性3人のテーブルに10個以上を盛った大皿を2つ運んでいました。現地ではあのようにビールを飲みながら、ヒンカリをひたすら食べることも少なくありません。

また、本場のものは大きさもさることながら、ヘタの部分は硬くなっていて、その部分を手でつまんで食べて、そのヘタは残すんですね。作る時も、小麦粉を大胆に使って、皮を取った周りの部分は捨ててしまうとか、いろいろカルチャーショックがあります。私の主催する料理教室ではジョージア風のヒンカリが体験できますよ。

座談会当日のメニュー @スンガリー新宿三丁目店

ー 他に、印象的な食事のシーンはありましたか。

山盛りのヒンカリの他は、若いダンサーたちが街角で焼きたてパンを食べてたのが美味しそうですね。トネ(釜)で焼かれたラヴァシと呼ばれる、インドからコーカサス、中東に広く見られる発酵させない素朴なパンの一種です。

私が気になったシーンは、メラブが自宅で食事をしているとき、生のパクチーを料理を口に運ぶ合間にかじっていたところです。ウズベキスタンなどでも、食卓に生のハーブを置いて、かじりながら食事をすると聞いたことがあります。そんなところにもアジアとの共通点を感じました。

― 家庭の食卓、ジョージアの庶民の暮らしぶりが丁寧に描かれていました。

メラブのアパートの中庭や町中にあるぶどうの木がトビリシらしい情景でしたね。木野さんがワイン文化の豊かさを描いた映画について語ってらっしゃいますが、この作品を観てもジョージアとぶどうの木は切っても切れない深い関係があるなと思いました。ジョージアの公用語、ジョージア語(カルトリ語)のグルジア文字は、ぶどうの蔦から生まれたと言われるくらいですから(笑)。

― 本日お召しになっているパーカーにも、そのグルジア文字( კორონავირუსით არ ვარ ინფიცირებული )が?

はい、まもなくジョージアを訪問する予定なので。ところが、新型コロナの流行で、中国人や日本人が感染者じゃないかと現地で誤解されることがあると聞いたので…。ただ、実際向こうで着るかどうかは決めていません。在住の方々の意見も聞いてからにしようと思ってます。ふざけて着られる状況じゃありませんのでね。ジョージアでも初の感染者出ました…。(※現地の検疫体制の強化により渡航を断念されたそうです)

― 現地訪問で、また素晴らしいジョージア料理を知って、日本にご紹介ください。ジョージア料理は、最近とても注目されているようにも思います。

牛丼屋さんが、シュクメルリ鍋を限定メニューで出すなど露出が上がって来てるのは嬉しいことです。ここスンガリー三丁目店のシュクメルリも本格的で実に美味しいですし、ヒンカリはもちろん、ハチャプリ、ハルチョーといったジョージア料理を楽しめます。

私もSapphiraさんからもご紹介のあった日本人初のジョージアンダンサー、野口雅史さんとのコラボイベント『ジョージア食と踊りとワインの会』でお料理を担当させていただきますので、ご興味を持たれた方はぜひご参加いただきたいと思います。ジョージア料理を、もっとたくさんの方に知ってもらえるよう、これからもがんばっていきたいと思います。
 
 

「型」があっての「型破り」― YAJ

LGBTQを扱った内容ということで、同性婚が合法化されていない同国では正教会による上映中止を求める声明が出されたり、プレミア上映当日に右翼団体による上映妨害騒動が起きたり 、社会問題化したという点で興味深い作品です。

木野さんがおっしゃるように、ジョージアにルーツを持つ監督が創ったとはいえ、部外者(スウェーデン)からの、ある意味、文化の押し付けは、日本に置き換えれば、海外から、土俵に女性が上がれないのは差別だとか、鯨肉を食べるのはけしからん!と声高に言われるようなものでしょうか。どちらが良くてどちらが悪いとか、文化的に進んでる遅れてるの話でもない。そうした地点、時点に今のジョージアという国はあるという認識を持てたことは良かったと思います。

製作側の意図は、主人公メラブに型破りなダンスをさせることでジョージアの旧態依然の価値観に揺さぶりをかけたのでしょう。ラストのシークエンスで、コーチの制止を振り切って踊るメラブ、呼応して演奏を続ける楽団員。そしてその型破りなダンスに心からの讃辞と快哉を贈るの幼馴染のマリの友情には感動を覚える見応えのある作品です。

その最後のダンスの時でも、舞踏団の重鎮が「型」に強くこだわった点は、上記Shapphiraさんのコメントにもある通り、新旧の相克が見事に描かれていたと思います。

「型」があっての「型破り」。世阿弥や利休、芭蕉で我々日本人もそれを知っています。やはりジョージアとしての「型」を完成させた者が現状打破を図ってこその本当の「型破り」なのかもしれません。外圧はキッカケにこそなれ、本当の改革は、内なる力によってもたらさせるもの。そんなことも考えさせられました。

5年前に訪問してからジョージアファンなので、ジョージア映画は可能な限り鑑賞するようにしています。この「ダンサー」も、あの国の在り方を考える良いきっかけになったという意味で、とても面白い作品でした。

今回の皆さんと映画を題材にお話しさせていただいて、ジョージアの文化、料理、そして伝統舞踊について、たくさんの良い学びがありました。

コミュニケーションツールの役割を果たしてくれる映画と、ジョージアに、ガウマルジョス!(乾杯)

 
 

木野ゆかり

映画ソムリエ、ライター。
年間200本以上の劇映画とドキュメンタリーをスクリーンで鑑賞する銀幕派。
2017年夏〜2018年冬のモスクワに滞在。

Sapphira

Sapphira (サフィーラ)

各国の民族舞踊をたどるうちにジョージアンダンスに出会い魅了される。2019年にジョージアに渡りスヒシュビリのコレオグラファー及びルスタビの現役ダンサーに学ぶ。東京在住。

小手森亜紀 (おてもりあき)

シルクロードを東から西へと食べ歩きしてみたいという野望を叶えるために長年勤めた会社を退職。シルクロードの西の果てでジョージアの美食に出会い魅了される。

ジョージアの首都トビリシの料理学校にてジョージア人シェフより伝統料理を学ぶ。帰国後は世田谷・祖師谷大蔵のギャラリーカフェジョルジュと共催の「ジョージア料理を味わう会」を皮切りに、ジョージア料理教室、ヒンカリワークショップ等ジョージアの食のイベントを毎月開催。世界一と言われるジョージアの食と文化をご紹介していきます。

YAJ(矢島徹至)

京都生れ、奈良育ち、東京在住。商社マン。

ロシア駐在中、МФК PHOTOS に加入。それを機に作品としての写真を撮りはじめる。

帰国後も精力的な撮影活動をこなし、日露文化交流イベントへの作品提供、演奏会のカメラマンを務める。

また、演奏会やライブとのコラボ写真展も企画。音とビジュアルの融合もひとつのテーマとして活動している。 

「被写体と私、その間にカメラがある。常に三位一体の関係です。」

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