去る2021年2月23日、東京 浅草にあるTheater SPROUT にてソ連映画上映会「運命の皮肉、もしくはいい湯気を!」が開催されました。 ロシア生まれ、ダンサー、モデル、翻訳家、MCなど多方面でご活躍され、今回の翻訳/字幕制作をされたKamilaさんにお話を伺いました。
運命の皮肉、もしくはいい湯気を!
[原題:Ирония судьбы, или С лёгким паром!] (1975)

- 監 督:
- エリダール・リャザーノフ
- 出 演:
- アンドレイ・ミャフコフ バルバラ・ブリルスカ ユリー・ヤコヴレフ
大晦日、友人とサウナで酔いつぶれてしまった外科医ジェーニャがモスクワから誤ってレニングラード行きの飛行機に乗せられ、自分のアパートの部屋だと思い込んでレニングラードの同じ住所に住む女性の部屋に入ったことから起こる騒動を描くこのロマンティック・コメディ。

このソ連映画上映会「運命の皮肉、もしくはいい湯気を!」は2019年11月に早稲田奉仕園リバティーホールにて第1回目を開催。
たくさんの方の「笑った、面白かった、感動して泣いた」という感想に勇気付けられ、2020年3月に再度上映会の開催を予定していましたがコロナウィルス拡大のためやむなく延期に。
今回はごくごく少人数での開催、その代わりオンラインでの同時配信という形がとられました。
上映前にはKamilaさんによる作品の背景、ソ連の社会状況などについての解説がありました。
『この作品は1976年の初上映から45年も経つ現在でも人気があり、ロシアや旧ソ連諸国の多くでは毎年、大晦日にどのテレビチャンネルでも放送されるため、「運命の皮肉を観ていない大晦日は本物の正月ではない。」言われるほどで、日本で言う年越し蕎麦を食べる感覚かもしれません。』

『エリダール・リャザーノフ監督はソ連を代表する映画監督で、ソ連映画のトップ10を並べた時に6〜7くらいは彼の作品というくらい良い映画監督でした。彼は普段俳優はしませんでしたが、本作で1カットだけ出演しているシーンがあります。』

『主人公のジェーニャを演じたアンドレイ・ミャフコフはそれまでほとんど無名の俳優でした。しかしこの作品に出演しとても有名になりましたが、逆にこの役のイメージが強すぎて以降の作品にはあまり恵まれませんでした。』

『当初主人公のジェーニャはアンドレイ・ミローノフという当時から人気だった俳優が起用される予定でしたが、主人公の人物像からするとミローノフはかっこよすぎて、より普通の一般的な市民のような顔が欲しいということでアンドレイ・ミャフコフが起用されたという経緯がありました。
残念なことにアンドレイ・ミャフコフは2月18日(上映会の5日前)に心筋梗塞で亡くなりました。上映会の準備をしている最中そのニュースを聞いて大変ショックを受けました。』

そして作品の解説に続き、当時のソ連の社会状況についてのお話。これらは作品のオープニングのアニメーションでも描かれ、また本編冒頭の登場人物のモノローグでも語られていましたが、このような共産圏特有の状況が物語の仕掛けとして機能していました。
『例えばモスクワとレニングラードの同じ住所のアパートに同じ鍵で入れてしまったり、部屋の間取りや調度品がほぼ同じものだったり。そこにはやはり共産主義体制への皮肉というものをコメディの中に忍ばせ、クリエイターとしてギリギリの線を狙ったものだと思います。』

『この作品がなぜこのように永く愛されているのか。それは様々な感情のバリエーションが含まれているからだと思います。コメディ映画ですがただ面白いだけではなく、悲しみ、切なさ、そして人の孤独というものにフォーカスされているという意見もあります。』
『ソ連映画の多くはYouTubeのモスフィルムのチャンネル でも観ることができます。また、今後このような上映会をする際には是非足をお運びいただき、ソ連映画の素晴らしさを知っていただければと思います。』

カミーラ «翻訳/字幕制作»
ロシア生まれ。10歳から日本に移住し、獨協大学外国語学部を卒業。
5歳の頃から民族舞踊を始め、民族舞踊アンサンブルKlimovchyankaのメンバーとして様々なステージで踊る他、社交ダンスを習う。来日後はオリエンタルダンサーとして活動を始める。2016年、ドバイで開催されたベリーダンスフェスティバルMagical Arabesqueに参加。ベリーダンスファッションショーTBDFS StageCostume Designのショーモデル。ダンス用品ブランドChacottのモデル。現在でもウクライナやロシアの民族舞踊、ジプシーダンス、ジャズダンスのダンサーとして活動を続ける他、多数のコマーシャルにも出演、翻訳にも力を注ぐ。