2019年9月24日東京文化会館にてリサイタルを開催されるピアニストの大塚玲子さんに取材させていただきました。音楽にかける思いとロシアでの成長について伺いました。
ピアノを始めたきっかけ
ピアノは4歳から始めました。
中学生までは福井県の実家に住んでいましたが、母がピアノを教えていることもあって大変厳しく、先生も声楽専攻の方だったのですがレッスンの日は体調が悪くなるほどものすごく怖くて、自宅での練習にも際限がなかったのです。
最初はコンクールでも、毎日の8時間の練習の成果も出ずなかなか上位に入れなくて、母や先生からもほかの生徒さんと比べられることで余計にピアノに対する気持ちが無くなっていく日々でしたが、小学4年生の時に突然初めて本選で1位をいただいて全国大会へ進めることになり、やっと少し自分の中でひとつ自信を持てるキッカケができました。しかし、コンクール当日、演奏が終わり舞台裏からロビーに出るとそこには仁王立ちしている先生の姿があり、「気に入らない」と正座をさせられて説教を受けることに…結果は出せても周りにはずっと認められず、小さかった私でしたが、常に気が抜けませんでした。


高校は桐朋女子高等学校音楽科に進学し、親元を離れ東京に出てくることになって、本格的な音楽家への道を歩み始めました。。
その頃の演奏は表面上一見弾けているように聞こえる場合もあったのですが、実際はガチガチの手や腕で無理矢理弾いており、子供の頃ピアノ専門の先生にほとんど教わってこなかった私は基礎が全くと言って良いほど無く、高校入学時はハ長調の音階を1往復弾くだけで腕が痛くなって弾けないレベルでしたので、あらゆる先生の指導を受けたり、自分でも日々研究の繰り返しで試行錯誤、一切遊びにも行かず、学校と寮の往復だけの毎日を過ごし、必死でピアノと向き合いました。音楽にも必ず良い影響があると信じていた私は、ピアノだけでなく、学校の授業は全て完璧を目指し、度々徹夜しながらとにかく全力で頑張って勉強していました。その甲斐あって、大学2年生の時には、桐朋から成績優秀者に贈られる奨学金というのをいただくことができました。
ロシア留学
ロシア留学のきっかけはミハイル・ヴォスクレセンスキー先生と朴久玲先生との出会い!桐朋に客員教授としていらしていたヴォスクレセンスキー先生に高校3年生の頃から毎年数回レッスンしていただいていたのですが、先生の音楽への情熱や音色、ロシアピアニズムの素晴らしさには圧倒され続け、またその通訳を毎回してくださっていた朴久玲先生(ヴォスクレセンスキー先生のお弟子さんで、モスクワ音楽院を首席で卒業された方)にも憧れて直接弟子にしていただけたことがきっかけで、ロシア音楽やピアノ自体を心から愛するようになり、私は自分の中で徐々にモスクワへの留学をイメージするようになります。しかし、もともとただでさえ海外で生活すること自体が信じられないほど怖くて不安だった私が大変な国「ロシア」に行くなんて…と日々悩んでは逃げたくなり、の繰り返しでしたが、ある時、そんな自分を成長させるには自分に試練を与え敢えて厳しい国に行くしかない!と覚悟を決めます。桐朋学園大学研究科を修了後、2年仕事をして留学中の生活費を貯め、「私、先生みたいになりたいので、モスクワに行きます!」と朴先生に言うとすぐにモスクワへと旅立ちました。
モスクワ音楽院

モスクワ音楽院(正式名称、チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院、ロシア語: Московская государственная консерватория имени П. И. Чайковского、英語: Moscow Tchaikovsky Conservatory)は、ロシアの音楽学校。 世界最高峰の音楽教育機関で、パリ音楽院、ジュリアード音楽院と並ぶ世界三大音楽院の一つ。
その留学が、また一筋縄ではいきませんでした。学校にはもちろん合格して入学したのですが、別途役所にも留学資格を認めてもらう必要がありました。しかし、必要な書類は全て正しく揃っていても、なぜか役所に受理してもらえませんでした。全く同じ書類を提出して受理してもらえている人が大半だったにもかかわらず…
その間も学校では授業やレッスンを受けられてはいましたが、学校の事務からは毎日顔を合わせればせっつかれ、外務省にも出向いて、ようやく受理してもらえたのが1年半後。2年間の留学中、1年半もの時間をそのことに費やしてしまいました。



また、日本で7年間寮での共同生活を経験していた私ですが、部屋に生活スペースや収納スペースを一切与えてもらえない、物は当たり前のようにとられる…などなど無数の問題を抱えた多国籍の3人部屋での寮生活は、通常のまともな生活さえ困難なほど大変で、あまりの辛さと疲れで病気をして病院で倒れたり、水1滴も飲めない日々を過ごしたことも2度ほどありました。
毎日の練習室を確保するのも大変、朝から闘いでした。皆眠い目をこすり6時に起きて行列に並び予約をして、やっと取れたと思っても、鍵盤がまるごともしくは幾つか無かったり波打っていたり、音が鳴らなかったり、ペダルが落ちていたり。。今ではそれも笑い話です!
ロシア語については半年ちょっと勉強し、文法はほぼ理解してからロシアに渡りましたが、分かっている言葉や表現であっても、ネイティブの生きたロシア語を聞き取ることは非常に困難でした。ロシアでは基本的に英語は通じませんので、歯がゆい思いをしながらも少しでも早く話せるようになるために、なかなか通じなくても懲りずに必死でコミュニケーションをとるよう努めました。
こういった困難や苦労がありながらもそれらを忘れてしまいそうなほど魅了されたのが、ロシア芸術の素晴らしさでした。音楽、美術、オペラ、バレエ、とにかくあらゆる芸術に溢れ、そのレベルが世界トップクラスなので、しょっちゅう楽しみ、癒されていました。没頭している間は日常から離れられて幸せでした。
また世界三大音楽院のひとつであるモスクワ音楽院の教育は最高峰で、先生方の貴重な授業から多くの刺激を得られたことは大変かけがえのない時間であり、また多くの苦労のお陰で大きく成長でき強くなって帰ってこれたことを思うと、やはりロシアを選んで良かったといつも感じます。当時はただ必死でしたが、今では、モスクワで過ごした全ての時間と経験は、私にとって一生の財産です。






リサイタルについて
2019年9月24日、東京文化会館にて『大塚玲子ピアノ・リサイタル リストと19世紀後半のロシアピアニズム』を開催いたします。この公演は公益社団法人日本演奏連盟が優秀な新進演奏家を育成、紹介することを目的とした「新進演奏家育成プロジェクト」としてオーディションにより出演者を選抜し、文化庁と日本演奏連盟の共催として実施されます。
日本でもロシアでさえも弾かれることのない大変珍しいスクリャービンのソナタを中心に、チャイコフスキーやグリンカ、アレンスキーの数多くの素晴らしいロシア作品、そしてロシアピアニズムに大きな影響を与えたリストの大作等で構成しました。リストとロシア作品の深い繋がりや、ロシア音楽の広大で限りない表現や音色の可能性を最大限にお伝えするとともに、私のこれまでの人生やロシアでの様々な思いや経験をいかして皆様の心に響く演奏ができますよう、心を込めて弾かせていただきます。
日本でもロシアでさえも弾かれることのない大変珍しいスクリャービンのソナタを中心に、チャイコフスキーやグリンカ、アレンスキーの数多くの素晴らしいロシア作品、そしてロシアピアニズムに大きな影響を与えたリストの大作等で構成しました。リストとロシア作品の深い繋がりや、ロシア音楽の広大で限りない表現や音色の可能性を最大限にお伝えするとともに、私のこれまでの人生やロシアでの様々な思いや経験をいかして皆様の心に響く演奏ができますよう、心を込めて弾かせていただきます。
通常は審査が厳しく個人では予約することができない東京文化会館は、世界的にも評価されている素晴らしいホールです。ぜひお越しください♪

大塚玲子ピアノ・リサイタル
リストと19世紀後半のロシアピアニズム
〜知られざるスクリャービン初期ソナタを中心に〜

- 日 時:
-
2019年9月24日(火)
19:00開演 (18:30開場) - 場 所:
- 東京文化会館 小ホール
- 入場料:
-
全席自由 2,500円
【チケットのお求め】
◎公益社団法人 日本演奏連盟
TEL:03 (3539) 5131
(平日10:00~18:00 土日祝休)
◎東京文化会館チケットサービス
TEL:03 (5685) 0650
(10:00~18:00 休館日を除く)
◎イープラス - 主 催:
-
文化庁
公益社団法人 日本演奏連盟 - 制 作:
- 公益社団法人 日本演奏連盟
- 後 援:
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桐朋学園音楽部門同窓会
一般社団法人全日本ピアノ指導者協会
併催
スクリャービンとロシアの音色
大塚玲子リサイタル記念写真展

大塚 玲子
桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部演奏学科卒業、同大学研究科修了。 チャイコフスキー記念ロシア国立モスクワ音楽院研究科を最優秀で修了。 ピアノを高務智子、紅林こずえ、玉置善己、朴久玲、セルゲイ・クドリャコフ、ミハイル・ヴォスクレセンスキーの各氏に、室内楽をヴィターリー・ユニーツキー、コンスタンチン・マスリュ-クの各氏に、伴奏法をエカテリーナ・ガネーリナ氏に、ロシア音楽研究を鮫島奈津子氏に師事。 現在、毎年国内外で多数リサイタルを行い、スクリャービン、ラフマニノフ、プロコフィエフなどロシアの作曲家を中心としたレパートリーを意欲的に紹介・演奏し続けている。また、後進の指導にも力を入れており、多くの生徒がコンクールで上位入賞、あらゆる音楽大学に合格している。プロを目指す音楽大学生、音楽大学卒業生も育てている。
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- 2007年 全日本マスターズ・ピアノコンクール最高位受賞。武生国際音楽祭ファイナルコンサートにて、モーツァルト「戴冠ミサ」の伴奏ピアニストを務める。Japan Classical Impressionist Audition第2位(特別奨励賞)。
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- 2009年 横浜開港150周年記念ピアノコンクールヴィルトゥオーソ部門優秀賞。日本ピアノ研究会オーディション横浜市長賞・ドレミ楽譜出版社賞。東京芸術センター記念ピアノコンクール年間最優秀ピアニストにノミネート、2010年、2014年に東京でのソロリサイタルに招聘される。
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- 2010~2012年 チャイコフスキー記念ロシア国立モスクワ音楽院在学中、「スクリャービン生誕140周年記念コンサート」など同音楽院ピアノ科生選抜コンサート、ミハイル・ヴォスクレセンスキー教授クラス選抜コンサートに多数出演。
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- 2012年 スクリャービン国際ピアノコンクール(パリ)第1位。モスクワ音楽院小ホールでの演奏が評価され、ロシア国営テレビ局より取材を受けた後にロシア国内で放送される。スクリャービン記念博物館(スクリャービンの家・モスクワ)にてソロリサイタルを行い、好評を博す。福井県越前市より、奨励賞を授与される。
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- 2013年 マリア・カナルス国際音楽コンクール(スペイン)ディプロマ取得、バルセロナにてソロリサイタルを行う。
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- 2014~2016年 福井県新事業「出張音楽堂」のコーディネーターを務める。
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- 2015年 BMWの依頼により、ショールームで多数ソロリサイタルを行う。
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- 2018年 ピティナ「ピアノ曲事典」の音源提供ピアニストとして公開録音コンサートを行うなど、意欲的に活動を始める。

МФК PHOTOS
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2011 年、モスクワで日露写真家の中村正樹が立ち上げた写真家集団 (Московский фотоклуб)。 写真講座や品評会を中心として、撮影会や展示会開催などを行っている。写真を媒介として、 日本の人々にロシアをもっと知ってもらい、好きになってもらうための啓蒙活動や、様々な地 域の魅力発信を続けている。現在ロシアに限らず世界各国にメンバーが在籍 (フランス・アゼ ルバイジャン・中国・シンガポール・タイ等 )。通称エムエフカーフォトズ。
